【レポート】
みんなで作る「できマウス。」プロジェクトとは
1 「できマウス。」を用途に合わせて開発する
2005/01/05
「できマウス。」は、肢体不自由の人などが使う支援機器のひとつである。マウスという名前はついているが、マウスそのものではない。USB接続のスイッチインタフェースで、この「できマウス。」と、市販もしくは手製のスイッチ(障害を持った人が、1本指や足やあごなど、身体の使える部分でボタン状のものなどを押したり離したりすることでパソコンを操作する装置)やセンサー、および、「『できマウス。』の仲間たち」と名づけられた各種のソフトを組み合わせることで、通常のマウスやキーボードの使用が困難な人でも、パソコンを操作することができる。
たとえば、あごでボタン(スイッチ)を押しつづけている間は画面上のマウスが移動していき、ボタンを離すと移動が止まる。あるいは、仮想キーボード上の"あいうえお"の文字を、ボタンで範囲選択して絞り込み、目的の1文字を入力する。そういった操作の繰り返しで、文字入力やインターネットの閲覧などを行うことができるというものだ。今回はこの「できマウス。」を開発した町田健治氏の仕事場を訪問した。
「できマウス。」の構想はゲームパッドから
町田氏の職業はプログラマー、農業、そして、「できマウス。」の開発、出荷、サポートだ。町田氏は「野良仕事をしていても、『できマウス。』のアイディアが浮かぶことがあります」と語る。町田氏は、もともとハードウェアの開発に携わる技術者で、坂戸パソコンボランティアに参加したのが、障害者のパソコンサポートに関わる始まりだった。そして、肢体不自由者のサポートも行うようになったとき、上肢障害を持ち、キーボード操作が困難な人のためにゲームパッドを使うことを思いついたことから、「できマウス。」の構想がスタートする。
当初はキーボードの代わりに市販のゲームパッドを使うことを検討していたのだが、それが接触不良となった時には、同じ物がもう販売されていなかった。USB接続のハードウェアと、デバイスドライバを作っていた町田氏は、それなら自作できないかと考えるにいたり、ファームウェアの開発をはじめた。そして、2000年の7月、パソコン雑誌の付録CD-ROMで、ふと「パッドdeマウス」というシェアウエアと出会ったことから、「できマウス。」はより大きな広がりを見せるようになる。
様々なソフトウェアと組み合わせて使う「できマウス。」
「パッドdeマウス」は、パソコン用のゲームを、キーボードではなく、ゲームパッドでプレイできるようにするソフトだ。これをキーボードやマウス操作が困難な人のために役立てることができないかと考えた町田氏は、「パッドdeマウス」の作者の和泉家氏に、このソフトは障害を持った人の入力手段としても使えるソフトだというメールを送った。そこから和泉家氏と町田氏の交流が始まる。
ユーザー補助機能が欲しい、仮想キーボードのフォントサイズを変更できるようにして欲しい。そのような細かな町田氏のリクエストに和泉家氏が応えていき、2001年9月には「パッドdeマウス」UniversalEditionがフリーウェアとして正式にリリースされた。その後も、和泉家氏と町田氏のやり取りの中で、「パッドdeマウス」はより使いやすく、より広い環境に対応したものへと進化し続けている。
実は「和泉家」というのは「パッドdeマウス」の作者のペンネームである。「和泉家さんが何歳くらいの人なのか、実名もいまだに知らないんですよ」という町田氏。しかし、その2人の交流は、インターネット上で続けられており、「メールのやり取りだけで、どんどんプログラムができてきました」という。
「できマウス。」と組み合わせて使うフリーウェアとしては、もうひとつ「JoyToKey」というソフトもある。こちらも、そもそもはキーボードでプレイするゲームを、ジョイスティックでも操作できるようにするためのソフトだったのだが、町田氏が作者の大久保氏に、1個のボタンでも利用できるようにしてほしいとお願いしたところ(肢体不自由な人が使うスイッチ類には、ボタン状のものがひとつだけの場合も多い)、全面的にプログラムを書き換えてまで対応してくれたという。このようなソフト、さらには「HeartyLadder」のような仮想キーボードを「できマウス。」と組み合わせていくことで、様々な障害を持った人の様々なニーズに応えることができるようになってきた。
ユニット化されたソフトウェアとハードウェア
また、町田氏が製作しているのは「できマウス。」のハードウェアのみではない。個別の用途にユニット化されたソフトウェアも同時に提供している。たとえば、
- マウス操作が困難: 「パッドdeマウス」「できリング。」
- マウス操作が困難+文字も入れたい: 「パッドdeマウス」
- マウス操作が困難+[Ctrl+]も操作したい: 「JoyToKey」
- カーソル移動はできるがクリックが困難: 「できクリック。」
- 一個のボタンに多機能を持たせたい: 「できボタン+。」
- 点字入力したい: 「でき6点。」
- ボタンの長短押しでPC操作: 「できチョンツー。」
- TabIndexで操作したい: 「できTAB。」
といった具合に、ユーザーが、「できマウス。」の付属CD-ROMから必要なソフトウェアを選択して使えるのが大きな特長だ。
また、ハードウェアの方もユニット化されており、コードレスにしたり、スイッチを12個までつけるような拡張ユニットも製作されている。12個ものスイッチを1台のパソコンで使う場合というのは想像できなかったのだが、町田氏によると、養護学校の先生からの依頼だという。「ドレミファソラシドと、あと4個のスイッチを余裕につけることで、複数の生徒さんが、ドの担当のスイッチ、レの担当のスイッチなど、一つずつ受け持ち、画面をみながら、それぞれの担当の音のところで、スイッチを押す。みんなで合奏する練習をしているそうです。実際に見てみたいなあ」ということだ。
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