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【レポート】

SIGGRAPH 2005 - 今年の基調講演にはジョージ・ルーカス氏が登場

2005/08/03

西川善司

今年も、世界最大級のコンピュータグラフィックスとバーチャルリアリティの学会でもあり祭典でもあるSIGGRAPHが7月31日より開幕した。明けて8月1日、今年も開催された基調講演で壇上に上がったのは、世界的に著名な映画監督、プロデューサーであり、脚本家でもあるジョージ・ルーカス氏。「スター・ウォーズ エピソード3」がこの夏に公開されたばかりで、まさに時の人の登壇ということで、非常に注目度が高く、多くの来場者が詰めかけた。基調講演という演目ではあったが、特に用意されたプレゼンテーションはなく、映画関連イベントのコンダクタを務めるBruce Carse氏との対談形式で行われた。

今年のSIGGRAPHの目玉の一つとなったジョージ・ルーカス基調講演だけに、注目度は高かった。開場1時間前からコンベンションセンターを取り巻く長蛇の列。

ジョージ・ルーカスご本人登場前には、彼の30年以上に及ぶ映画創作活動を振り返るビデオクリップが流された。

私は語り部であって技術者ではない - デジタル技術は想像力にリアリティと説得力を付加する道具

まず、話題として取りあげられたのは、次から次へと生み出される新しいデジタル映像技術と、どう向き合っていくか、という事についてだった。

左が対談相手を務めたBruce Carse氏。右が言わずとしれたジョージ・ルーカス氏。意外に小柄な人物だ。

「私は結局のところ、物語の語り部(ストーリーテーラー)に過ぎないんです。実際のところ、私は最新デジタル技術の中身はこれっぽちも分からないんですよ(笑)。水の流体物理シミュレーションを研究している著名な研究者がここ(会場)にいらしていますが、私は通称"水男"と呼ばせてもらっています。水男だけにパンツが濡れてしまいそうなくらい凄くリアルなCGを作り出してくれますけども。ですが、私はその技術をどういう表現で使うと効果的かということを考えますね。私の得意とする空想世界のイメージというのは現実世界にはないですから、それをいかに本物らしく、説得力を伴って見せるか、ということに心血を注ぐことになるんですよ。この精神は私の大好きな日本の映画監督である黒澤明監督と共通するものです」(ルーカス氏)
 
これまで漠然とデジタル技術の人……というイメージを伴っていたルーカス氏だが、彼自身は生み出される1つ1つの技術に特別な執着心はなく、作り出したい映像を具現化するための道具の1つという認識のようだ。

続いての話題は、彼が生み出した数多くの関連企業や関連技術について。ルーカス氏はデジタル特殊効果制作関連会社「Industrial Light & Magic」(ILM)を設立したが、ここはジョージ・ルーカスのためだけの会社というわけではなく、様々な他の映画タイトルへの特殊技術を提供するビジネスを展開している。

「トイ・ストーリー」で知られるPIXARスタジオも、元々はルーカス・フィルムのCG部門が独立してできた企業だ。そして世界が認める定番グラフィックスソフトウェア、Adobeの「Photoshop」も、元々はILMの特殊効果スーパバイザを務めるJohn Knoll氏が開発したものが原型になったことは"その筋"の世界ではよく知られている事実だ。世間で何気なく目にするデジタル映像技術の1つ1つが、実はルーカス氏の息が掛かったものであることを再認識すると、彼こそが「デジタル銀河の皇帝」なのでは?……という気すらしてくる。

「ILMはデジタル映像技術、ルーカス・アーツはインタラクティブ性を伴ったリアルタイム技術の会社で、それぞれは細かく見ていけば別分野を担当しているわけですが、1つ1つはデジタル技術であることに変わりありません。今でもそれぞれの関連企業が互いに連携して、新しい次元の新技術を開発しています。このパイプラインこそが、デジタル映像技術のトータルな底上げに繋がると期待しています」(ルーカス氏)

PIXARもPhotoshopもソニーのフルデジタルシネマカメラもジョージ・ルーカスのお膝元から育ったテクノロジー。彼こそがデジタル映像銀河帝国の皇帝だ。

エピソード3を終えたルーカス氏のやり残したこととは?

最新作であり銀河伝説の最後の1ピースであった「スター・ウォーズ エピソード3」が完成、公開されたわけだが、この制作を振り返ってみてルーカス氏は何をどう思うのか。

「エピソード3はエピソード2と比較してコンピュータグラフィックス映像(CGI)の割合が非常に多く、かつて経験したことのない規模のプロジェクトとなり、私にとっては大きな挑戦となりました。実在しないCGIの舞台セットであるバーチャルセットや、俳優をデジタルアクター化したものと実際の人間とのインタラクト・アクションなどなど、その規模や複雑性はエピソード2を遙かに凌ぎます。しかし、基礎となる技術はエピソード2を制作する過程で生み出されてしまったのです。エピソード3は、かつて経験したことのない高さの山でしたが、その登り方はエピソード2である程度心得ていた……と言えるかもしれません。しかし、映画というのは、ストーリーから生まれるのであって、技術から生まれることはありません。だから、新しい映画にはその都度、新しい技術は必要になるのです。だから、何かをやり尽くしてしまったという実感はありませんし、これからもやることはいっぱいあると思っています。私にどの程度の時間があるのかは分かりませんが(笑)」(ルーカス氏)

今後のルーカス氏の活動については、詳しい言及はなかったものの、ハリソン・フォードをデジタルアクターで若返らせて出演させる「インディ・ジョーンズ」の続編の話や、「スター・ウォーズ エピソード3」と「エピソード4」との間をつなぐ物語をテレビシリーズで展開するという噂も聞こえてきており、今後も、ルーカス氏は精力的な活動を行っていくと思われる。彼のデジタル銀河帝国はまだその勢力を広げていくことだろう。

ルーカス氏の対談相手を務めたBruce Carse氏は最後に「ルーカス、あなたは映画の制作方法を画期的に変えた人物であることは間違いない。おそらく、これは映画史に記録され、人々の記憶に残ることだろう。きっと後世、映画史を語る際に、B.G.とA.G.という時代区分ができると信じています。」と結んだ。B.G.はBefore George、A.G.はAfter Georgeを表す。いうまでもなく紀元前(B.C.)と紀元(A.D.)にあてた洒落で、アナログベースの撮影、リニアな制作をB.G.、フルデジタル時代に突入した現代映画制作をA.G.と呼ぶ……というわけだ。最後、壇上を去るルーカス氏に対して、会場内の聴衆全てが起立してのスタンディングオベーションとなり、拍手が延々と続いた。

壇上を去るジョージ・ルーカス氏。拍手は鳴りやまない。


(トライゼット西川善司)


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