【レポート】
夏休み映画2006 - タイムリープよ、もう一度。この夏が旬のアニメ映画『時をかける少女』
2006/07/18
15日、アニメ映画『時をかける少女』が公開された。作家の筒井康隆が1965年に発表した同名小説は、原田知世(1983年版)や内田有紀(1994年版)など、その時代の先端を行く若手女優を主演に起用する形で過去6度も実写化され、その度に大きな注目を集めてきた作品。今回が初となるアニメ化にあたっては、原作者の筒井氏自身が「本当の意味での2代目」と語っており、まったく新しい主人公が21世紀の現代を舞台に「時をかける」ことになる。
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貞本義行によるメインビジュアルから夏空をバックに飛ぶ主人公・真琴。制服は都内の高校のものを参考にデザインされ、学校のロケハンも7カ所で行われた。 |
あらすじ
高校2年生の紺野真琴は、親友の間宮千昭や津田功介と野球遊びに興じる毎日。ずっと3人での楽しい時間が続くと思っていた矢先、真琴は放課後の理科実験室で、過去に飛べるタイムリープ(時間跳躍)能力を偶然身につけてしまう。「魔女叔母さん」と慕う芳山和子に相談するも叔母は「よくあること」と微笑むばかり。それならと真琴はテストの先読み、カラオケの時間延長と自分に都合のいいようにタイムリープ能力を使いまくるが、いつの間にか周囲の問題を解決するために東奔西走することになってしまう……。
監督は『デジモンアドベンチャー』『ONE PIECE』の劇場版や、ルイ・ヴィトンのイメージ映像『SUPERFLAT MONOGRAM』などを手がけている細田守。一般的にはまだ「知る人ぞ知る」存在かもしれないが、アニメファンの間では近年とくに注目を集めている監督のひとりだ。『時をかける少女』のアニメ化は細田監督たっての希望ということで、入魂の作品であることがうかがえる。脚本は『学校の怪談』シリーズで日本アカデミー賞脚本賞を受賞した奥寺佐渡子が細田監督と共同で担当した。キャラクターデザインは『新世紀エヴァンゲリオン』などの貞本義行。シンプルな筆致で現代的なキャラクターを生み出している。美術監督は『もののけ姫』など多くのスタジオジブリ作品に関わるベテランの山本二三(やまもと・にぞう)が務め、高校や下町など全編に渡ってリアリティあふれる物語空間を描き出している。そのほかにも一線級のアニメーターが大挙して参加し、制作は『MONSTER』『BECK』『NANA』など質・量ともに高いアニメを世に送り出しているマッドハウスが行った。音楽はNHK『日本人はるかな旅』などの吉田潔が担当。懐かさと新しさが同居する楽曲が作品の情感をより深いものにしている。主題歌と挿入歌を歌う奥華子はメジャーデビューからは間もないが、すでに「TEPCOひかり」のCMソングなどでおなじみの実力派。のびやかな歌声はまさに作品のイメージそのものだ。
主人公・紺野真琴役には200人を超す候補のなかから、CM出演や雑誌モデルで活躍する17歳の仲里依紗(なか・りいさ)が選ばれ、活動的なヒロインの喜怒哀楽を見事に演じきっている。真琴の叔母であり、謎めいた30代の独身女性として登場する原作の主人公、芳山和子役は女優の原沙知絵が好演。起用にあたっては細田監督が指名したというだけあって、要所要所で印象深い声の演技を残している。また高校のクラスメイトなどに現役高校生の俳優やモデルが多く起用されているのもポイント。声優経験の少ない若手を使うことは、新鮮な魅力を吹き込むと同時に、不慣れな演技が出てしまうリスクも伴うが、この作品に関しては、高校生の声を高校生に任せたことが素直によい結果を生んでいる。
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真琴と座る親友の千昭(左)と功介(右)。ペットボトルや千昭のゲーム機、スニーカーといった小道具が細かい。3人の距離感の揺れも大きな見どころ。 |
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かつて時をかけた少女、芳山和子は真琴の叔母として登場。過去作品と直接のつながりはないが、知っていればなお楽しめる場面も。 |
SFやサスペンス、そして恋愛の要素を緻密に詰め込んでいるが、物語は主人公の真琴の感情に沿う形でテンポよく進むので誰にでもわかりやすい。また辣腕アニメーターによる細やかな動きと、ディテールにまでこだわった美術、そして自然な声の演技といった作品自体の地力も相当なもので、東京・中野の哲学堂公園をモデルにした野球場で主人公たちがキャッチボールをするだけ、といったなんでもないシーンすら妙にいとおしい。同時にそうした日常の価値が丁寧に描写されているからこそ、ドラマが大きく動き出したときには、それがかけがえのないものだったことに気づかされ、真琴の思いがより胸に迫る。笑って泣けて、そして誰もが見たあとに少し前向きになれる、青春映画の傑作としてアニメに興味がない方にも広くおすすめしたい。
ただひとつ惜しいのは上映館が少ないこと。配給側は順次拡大を行うとしているが、7月中に上映されるのが全国で13館というのはやはり少し寂しい。2006年の夏を結晶化したような作品だけに、遠出をしてでもこの夏休みに劇場で見てほしい1本だ。
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映画公開に合わせて角川文庫からは原作小説の新装版が発売。460円。表紙のイラストは貞本義行によるもの。 |
(C)「時をかける少女」製作委員会2006
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