【コラム】
東京バイツ
154 サイバー警察がネットワーク時代の予防警察となる可能性について
2003/12/04
サイバーポリスないしサイバーフォースというものが存在している。などと書くとトム・クランシーの小説(『ネットフォース』)の読み過ぎだとか、『攻殻機動隊』じゃあるまいし、なんて言われそうだが、実際に日本の警察にある組織だ(
「平成12年1月、米国政府はハイテク犯罪やサイバーテロの脅威に対して『情報システム防護に関するナショナル・プラン』を発表しました。/我が国でも、国家の安全に重大な影響をもたらす攻撃からコンピュータシステムを守るために、政府全体としての取組みが行われています。/(中略)/さらに、サイバーテロについては、発生した場合の社会的影響が甚大であることから、その未然防止、被害拡大の防止等が重要となるため、サイバーフォース(機動的技術部隊)を創設するなど、監視・緊急対処のための体制づくりにも取り組んでいます」(政府・警察の取り組み
最初は海外からの要請だった。1989年のアルシュサミットあたりから、主にマネーロンダリング対策として先進国の警察の国際連携が模索された。「電子的監視」などの文言とともに、ネットの監視だけでなく、盗聴などの国内法整備がサミット関連の宣言などに盛り込まれ、その結果盗聴法(通信傍受法)が成立した経緯は言うまでもない。このサイバーポリスの設立も、最近問題になっているサイバー犯罪条約や越境組織犯罪条約なども、こうしたネット時代の警察の国際連携の動向といえるだろう。むろんネットにアクセスする人間がみな善人ではないし、犯罪も増えているから、警察がネットに精通し、専門捜査機関を設けることには、特に批判はない。しかし、このあたりの文章や先の2条約など、並行する動向を併せて見ると、正直言ってどこかに危なっかしさを感じざるを得ないのだ。
警察の活動は日本の国境内に実質的に限定されるので、他の国で起こった犯罪はほとんど訴追されない。刑法犯が国外に「高飛び」するのも、それを盾に取っている。ただ日米間などでは刑法の各罪ごとに細かく定められた犯罪人引き渡し条約が存在しており、条約を結んでいない国に関しては、ことある毎に交渉して引き渡してもらったりする。実際、日本政府はペルー政府が犯罪者として引き渡しを要求している人物(元大統領)を、日本国籍を保持しているという理由で引き渡していない。
ところがネットワークに国境はないし、商行為にもほとんど国境がないので、金銭目的の犯罪はネット経由ならすぐに越境できる。そこで必要になるのが、ネットに精通した警察機構や先のサイバー犯罪条約などの国際連携というわけだ。サイバー犯罪条約ではいわゆる双罰性(お互いの国で同じ罪が同じ程度の刑罰になる時は、犯人を引き渡すという慣行)であるとか、その国の人権や政治的理由からの犯罪人引渡拒絶のこれまでの議論を無視して、ある国で犯罪であれば、すぐに犯人を引き渡す、などの条項が盛り込まれている。ようするにネットワークが世界をつないだことで、犯罪も国際化したが、刑法も国際化しようとしている。犯罪者は地球上にいる限り、逃げられないことになる。
これは良いことだろうか。殺人など凶悪犯ならたしかに納得しやすいが、それでも先の犯人引渡拒絶の議論にあるように、世の中には日本なら懲役罪でしかない罪で死刑にされてしまう国もある。反体制運動などの政治犯を刑事犯とすることで、実質亡命などの行為も不可能になってしまうだろう。
また、国内で発生した犯罪について、厳密な法運用のもと活動してきた(とされている)警察が、たとえば「サイバーテロ」などという曖昧な概念によって、まだ起こっていない未然の犯罪に対応する戦前の特高(特別高等警察)など、いわゆる予防(治安)警察の色合いを帯びつつあることも気になる(「私たちの生活になくてはならない重要インフラの機能の中枢を担うコンピュータ・システムを電子的に攻撃して社会や国家の基盤を危機に陥れようとする『サイバーテロ』への対策が必要となってきました。」前掲Webより)。越境組織犯罪条約で市民運動家によって問題視されている共謀罪とか相談罪と呼ばれる犯罪の企図そのものを罰する条項と、それに対応する国内法整備は、同じ流れの内にあると考えられる。
たとえば、サイバーフォースセンターが定期発表している「わが国におけるインターネット治安情勢の分析について」(
ようするに、この一連の「サイバー警察」体制は、一般人がネットに不案内なのをいいことに、人知れず予防警察化していく可能性がある気がしているのだ。これは杞憂だろうか。
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
vwyz@jca.apc.org
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