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【コラム】

ちょこっとイイブック

20 キモカワ、キモオモ - 「元祖 スバラ式世界」(原田宗典)

2005/07/06

一井おん

こんにちは。多弁について考えるイチイです。そのきっかけは、ある休日の夕方、渋谷に向かう電車の中で。むむっ、どこからか、マシンガンのようにしゃべる若い女の声がするぞ。

「○○クンってー、意外とMだしね!」
「私ってー、もうどこだってやっていけるんです。つらいこともじゃんじゃん来てって感じで!」

こんな感じで、とにかく威勢よくしゃべるしゃべる。パワフルな人もいるもんだ、と声のする方を見やると、ドア付近に専門学校生風の男女グループが立っていました。驚いたのは、その声の主、めちゃくちゃかわいいのです。小柄で、黒髪セミロングの色白の女の子。黙っていればCM美少女風の彼女が、目をまんまるに見開いて、手振り身振り豊かに、声をぶっぱなし続けるオンステージ。その姿は、テンションが高いというよりも、おばちゃんの元気のよさを感じさせるものでした。しまいには電車の中でケータイが鳴り、

「あっ□□さん? ちょうどよかったー。今から渋谷、来てくださいよぉー」

と飲み会に呼びつける始末。CM美少女もしゃべりすぎれば磯野貴理子。むしろ見た目がかわいらしいほど、しゃべった時の残念さもひとしおです。ケーキを食べた後のフルーツが少しも甘く感じられないように、かわいらしさがみじんも感じられなくなってしまうのは不思議なことです。

「秘すれば花なり」という言葉がありますが、何事もあけっぴろげすぎるのは美しくないなあと思う今日この頃です。コミュニケーションが重視される世の中で、仕事場でもプライベートでもますます密な連絡が要求されている気がします。みんながますます口を開いている世界。でも、女の子がしゃべりすぎるのだけは、かわいくない! とイチイは思います。黒柳徹子になるにはまだ早い歳でしょう?

女の多弁と並んで、最近イチイが我慢できないのは男の顔文字メールです。特に不快な気分になるのはバンザイマーク、そうこれ\(^o^)/。何がうれしくてそんな手ばなし状態になるんだ、どうせ今は下向いてケータイポチポチうってんでしょ?? と勝手にケンカ腰になってしまうくらいこのマークが嫌い。そんな顔文字を連発するような、しかし実際は顔文字に似つかわしくない輩(まあ似合っていればいいんですが)は、ばっさり「キモい」のレッテルを貼っちゃる。

やれやれ。やや興奮気味の文章になってしまいましたが、クールダウンの意味もこめて電子書籍の紹介です。今回選んだのは、原田宗典さんのエッセイ「元祖 スバラ式世界」。じめじめした季節なので、カラリと面白いエッセイを読んで、電車の中でもクスリと笑ってやろうじゃないかという魂胆でした。

読み出して初めて、この人の文体を思い出しました。原田宗典エッセイの特徴といえば、あのブリッ子のような、ナヨッとした文体です。「イヤン、むねのり困っちゃう」みたいなあの文章。原田宗典さんのエッセイは、まさに常に困っちゃってる状態といえるでしょう。たとえば電車の中のトホホ体験だったり、パーティで冷や汗をかいたり、ピッチャーマウンドで玉砕してみたり。それを、何があっても「むねのり困っちゃう」節でカバーしています。こんなに困ってばかりで、この人ちゃんと生きていけてるのか、眉毛はハの字になってしまっているのではないか……などと考えてしまいそうになります。お写真を拝見してみれば、実際そのような雰囲気を感じてしまうんですけれどね。

個人的には、一人称が「僕」である人は苦手です。だって、メールに顔文字を打ってくる人と同じで、「キモい」んですもの。でも、その路線で行くと原田宗典さんの文章なんて最っ高に苦手であるはずなのに、なぜか不快感は出ず、爽やかに笑えてしまうのです。なんででしょ?

きっと作者自身の人柄の問題でしょう。本当にイチイの嫌いなタイプの顔文字男とは違い、実はとても男らしい面を持っているのだと思います。それが、あまーいあまい「困っちゃう」生クリーム文章の中に隠されているのです。

それを感じ取ったのは、エッセイの中で、10代20代の男性の「頭の中の約97%はエッチ」と言い切ってしまっていたあたり。椎名誠さんの文章なんかもそうですね。例の「イヤン困っちゃう」文体でありながら、本人はモンゴルの草原を馬で駆け抜けるような、とても男らしい人。むしろ、ダイレクトに「男!」な部分を主張するのが照れくさくて、わざと生クリームで覆っているのかもしれません。実はその隠れた部分に惹かれるからこそ、多くの人が「困っちゃう」エッセイを愛しているのかもしれないナァと思いました。まさに、「秘すれば花なり」ということなのです。

「キモい」という言葉はほめ言葉ではありませんが、「キモカワイイ」だとギャルに好かれそうな響き。「キモカワイイ」男、原田宗典さんの書くエッセイはまさに「キモ面白い」ジャンルと言ってよいと思います。

「元祖 スバラ式世界」

著者:原田宗典
出版社:集英社
価格:368円
データ形式:ドットブック
購入サイト:電子文庫パブリ

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