【コラム】
エンタープライズ0.2 - 進化を邪魔する社長たち -
19 オマエの都合など知らないという新人社長。放任主義0.2
2009/06/23
子供の放し飼い
妻が実家の八百屋を手伝っていたときのことです。店内を幼稚園ぐらいの子供が走り回っていました。狭い通路で走られては他の客の迷惑となり、品を補充するスタッフの足下を駆け抜けるので危険ですし、何より邪魔です。ママはママ友との会話に夢中で子供を気にも留めません。「お子さんを走らせないでください」と妻が注意しました。するとママはいいました。
「ウチは放任主義だから」
目が点になるという漫画的な体験をしていると、運動会に飽きた子供が映画のワンシーンを演じ始めました。つぶらな瞳を輝かせ一点を凝視します。おもむろに人差し指をたて一点に伸ばしていく姿は、映画「ET」の有名なシーンと重なります。八百屋のETは「桃」。桃は圧力が加わった部分が変色し、売り物としての価値が下がります。そこで、点になった目をママから子供にフォーカスチェンジして注意します。
「桃を押しちゃダメだよ」
注意されたことに気がついたママは、慌てて子供の側によりこういいます。
「怖いわね。行きましょ!」
子供の手を取り、妻を睨みつけて何も買わずに帰って行きました。妻はいいます。
「こっちは商売やっとんのじゃ」
妻の名誉のために、言葉は私の「意訳」であることを記しておきますが、こういう子連れ客は少なくないといいます。私はこれを「子供の放し飼い」と呼んでいます。
根拠のない根拠による人事
サービス業のT社長はホームページのリニューアルをきっかけに、飛躍的に業績を伸ばしました。もとのホームページは社長の自作で独りよがりだったものを、制作業者が同業他社との競争力を精査し、T社長からヒアリングを重ね、「セールスポイント」を明確にすることで差別化しました。これが奏効し、スタッフを増員し、工場を拡張するまでになったのです。
そして新事業に着手しました。最初に手をつけるのはホームページです。それをM君に一任しました。M君はアルバイトから社員になったばかりの新人で、任命理由はこれです。
「新しいサイトだから新しい人に任せる」
T社長は業者を信頼しており、上手くフォローしてくれるという目論見だったのでしょうが大誤算です。「放し飼い」となった社員の言葉に、業者は怒り心頭に発し、取引の一切を断りました。
まず、この任命理由には2つの問題があります。
丸投げとは無能の証明
新しいというのは時系列での状態で、能力や適性を表すものではありません。つまり、M君の能力を担保するものではないのです。次に「任せる」が曲者です。任せるといった場合でも、最終的な責任は社長や上司にあることを忘れてはなりません。
「サイトの相談をしたい」と業者にM君からのメールが届きました。そこにはこういう条件がありました。
「昼間は仕事があるから夕方以降で時間を作ってくれ」
業者にとってホームページ制作は本業で昼間の仕事です。イラッとしましたが、どちらにせよ業者は多忙を極めており、面談する時間はとれないので断りました。すると「どうにか来週、話ができないか」と食い下がります。それすら難しいことを伝えるために、細かなスケジュールを開示して謝します。すると、次の一文の入ったメールが届きました。
「そちらの事情は知らないし興味もない。あえるか会えないかで回答しろ」
個人的な交流もあったことから、業者はT社長にやり取りについてメールで訊ねてみました。
はき違えてはダメ
T社長からの返事には「全てMに任せている」とあります。事情説明や詫びの言葉はありません。社会常識としてこう述べるということは、M君の言葉はT社長の言葉であり、会社として「下請けの都合など知らない」といったということです。社員の放し飼い宣言をうけ、業者は丁重に取引を断り、今後一切取引しないことを社内のルールとしました。
結局、別の業者を探しているうちに新企画の話は立ち消えとなりました。後に両者と親しい経営者がT社長から顛末を訊ねるとこう答えました。
「任せた以上、口を出さないほうがいいと思った」
放任主義0.2といったところでしょうか。横やりを入れることで部下の成長を妨げ、アドバイスが社員の自主性を奪うコトもあります。口を出さないというのは間違いではありません。しかし、このケースでは誤りです。なぜなら能力を精査せず、経験を考慮せず「新人だから」を理由に任命しているのですから。
M君はネット技術に長けているわけでも、業者との交渉経験もない新人で、彼に全 てを託すのは残酷といっても過言ではありません。放任と無責任は異なり、信頼と思考停止は別の時空に存在します。仮にM君への「協力」を業者に期待するのであれば、T社長がお願いするのが筋というものです。M君の言葉を借りればこうなります。
「そちらの社内事情は知らないし興味もない」
社員教育の究極の責任者社長ですから。八百屋には野菜を切り整える包丁が置かれています。積まれた段ボールに針が残っていれば、子供の指を切るのは造作もありません。間違った言葉遣いでトラブルを引き起こすリスクは、ベテラン社員より新入社員の方が高いことは疑いようもありません。子供の放し飼い・・・いや、家庭外放任主義は子育てでも会社経営においても危険です。
エンタープラズ1.0への箴言
「任せるとは責任を放棄することではない」
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