【コラム】
シリコンバレー101
172 バッシングもOK、ユーザーに自由に作らせる太っ腹コマーシャル
2006/04/11
無料動画共有サイトYouTubeで「Chevy Tahoe」または「Chevrolet Tahoe」と検索すると、シボレーのSUV車「Tahoe」のパロディCMがズラりとひっかかる。たとえば「Chevy Tahoe SUV God」というビデオは、「温暖化? 原油枯渇? 安全性?」というテロップで始まり、「そんなことは些細な問題。Tahoeに乗っている限り、あなたは"神"」と続く。映像はシボレーがCMで使っている疾走シーンを転用しているような感じで、「これってちょっとマズいんじゃないの」と思わせる。ただ、ほかのパロディCMも、同じ映像を使っている……。
これらは、シボレーが公募中のTahoe 2007年モデルのコマーシャル・コンテストのフォーマットに従っている。中には内容的にルール違反の作品もあるのだが、その多くはシボレーも認める自作CMである。
試験的ではあるが、ユーザーにCMや広告を制作してもらう手法が、最近のマーケティングトレンドになろうとしている。シボレーのほかにも、ジェットブルー、ソニー、マスターカード、コンバースなどが試している。このようなアプローチが試みられるようになった理由は様々だ。CMに限って言えば、HDDレコーダーの普及以来、CMスキップ対策として、様々な新手法が試されている。広告がテレビや新聞・雑誌からオンラインへと分散しているのも理由の1つだ。ただ、企業を魅了している一番の理由は、「話題になるから」だろう。
現在、自爆テロを題材にしたフォルクスワーゲンの「Polo」のCMがインターネット上に流出している。男がカフェの前でPoloを停め、自分も乗っている状態で車に積んだ爆弾のスイッチを入れる。ところが爆発は車内で花火のように光るだけで、車の外にはまったく漏れない。そこで「Polo、小さいけれどタフ」というテロップが映される。印象に残るが、自爆テロがテーマになっている時点で、CMどころか、放送にも"不可"が付く。これは代理店が試験的に制作したもので、公になるはずのない映像だった。ところが流出し、そして大きな話題になった。そのため、フォルクスワーゲンや代理店による意図的な流出も疑われた。
Poloの自爆テロCMはユーザー制作型ではないが、ユーザー制作ならば、自爆テロCMのようなキワどい内容のCMも作品として出てくる可能性がある。しかも、道徳的に問題があったとしても、メーカー側の責任は問われない上、製品に対して従来のCMとは違った話題性が期待できる。
もちろんユーザーが自由に制作できるという点で、リスクも伴う。冒頭のTahoeのコンテストでは、シボレーがサイト内で車の特徴を説明しているにも関わらず、燃費の悪さや維持費の高さなど、メーカーが望まない面ばかりがクローズアップされた。シボレーはバッシング的な内容の作品も受け入れるとし、ユーザー制作型CMを試し始めた責任を貫くというその姿勢は評価されたが、これまでのところ、ユーザーにブランドイメージを託すマイナス効果が露呈する結果となっている。トレンドとはいえ、メーカーが望む製品の特徴が、本当に消費者やユーザーから愛されていなければ逆効果という、ちょっと危険なマーケティング方法だ。
さて、ユーザー制作型CMの話題でよく登場するのが、映像公開の場となっているYouTubeである。元Paypalの社員が2005年2月設立した、ガレージ会社から誕生したサービスだ。サービス開始後しばらくは低空飛行が続いたが、同年12月にNBCのサタデーナイトライブの映像がYouTubeで公開され、問題になってから急速に成長し始めた。現在は毎日500万人以上が、3,500万本以上のビデオを視聴しているという。無名状態からわずか半年でトップサイトの仲間入りをした。現在、サンマテオにあるピザ屋の上にオフィスを構えている。ゼロから1年の企業としては適当な規模のオフィスだと思うが、あまりにもサービスの成長が急速すぎて、それでも不釣り合いに思える。
手軽に動画を公開できるYouTubeの課題は海賊行為対策である。2006年3月末から自由に公開できるビデオの時間を10分までに制限したが、実際のところ著作権を侵害している映像は多い。
それにも関わらず先週、YouTubeがSequoia Capitalから800万ドルの第2次資金調達を得たことが発表された。人気の上昇と共に、その危うさもクローズアップされ始めていただけに意外に思う方もいたのではないだろうか。YouTubeユーザーの海賊行為は、P2P時代のNapsterと比較されることが多いが、テレビ局や映画会社から比較的あたたかく見守られているのも不思議だ。
その点をYouTubeのマーケティング・ディレクターに質問したところ、「今は猶予期間みたいな時期だ」と述べていた。もちろんテレビ局や映画会社は海賊行為を問題視している。そしてその一方で、YouTubeのユーザー数や、YouTubeのユーザーがソーシャルネットワーキングサービスのような機能で結びついている点にも注目している。あるテレビ局から番組映像の削除依頼があった日と同じ日に、同じ局の違う部門からYouTubeを使った番組宣伝の相談を受けたこともあったそうだ。今のところYouTubeは、ビジネスモデル次第では大化けするかもしれないという期待で見守られている。ユーザー制作型のCMと同様、リスクと可能性が入り交じった混沌とした状態である。
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