【コラム】
シリコンバレー101
190 アーティストと鑑賞者の距離、YouTubeの人気バンドがMTVアワードに
2006/08/29
第187回で紹介したサンノゼ市で行われたデジタルインタラクティブアート・フェスティバル「ZeroOne」には、4回足を運んだ。最初の2日間はベイエリアにいなかったから、ほぼ毎日通っていたことになる。
期間中、サンノゼのダウンタウンは無線ネットワークでカバーされ、インターネットや携帯電話を使ったアートイベントが街中で行われた。インタラクティブアートの面白さは、鑑賞者が参加できるところにある。観る人が手を加えてどんどん変化する作品、ハプニングという予想もつかないことを表現とする作品など、観る人が参加して成立する作品も多い。だから"アーティストの作品"というよりは、"アーティストのプロジェクト"と言った方が正確と思えるモノも多かった。
街全体を使ったデジタルインタラクティブアート・フェスティバルには、色々と考えさせられたが、最も印象に残ったのはアーティストと鑑賞者の関係である。鑑賞者は一方的に作品を受け取るだけではなく、参加できるから、アーティストや作品を身近に感じられる。インターネットや携帯電話などのテクノロジは、その結びつきの範囲を広げ、そして強くする。そこでふと思ったのは「ここにインターネットと表現者の問題を解決するヒントがあるのではないか」ということだ。
インターネット普及の影響を最も受けた、音楽業界で考えてみよう。オンライン音楽ストアが定着しようとしているが、依然としてレコードやCDのビジネスモデルを引きずっている面が強く、業界とリスナーの間の溝は深い。だが、レコード会社が一方的に音楽を供給し、リスナーが消費だけを強いられる状況では、リスナー離れは解決しないと考える人たちが出てきている。
たとえば第186回で紹介したジェシカ・シンプソンの、DRM処理が施されていないMP3形式でのシングル販売だ。購入してもらうための仕組みは、購入時に自分の名前を曲中に組み込めるカスタマイズ機能だ。もちろん、ジェシカ・シンプソンが呼んでくれる。これもインタラクティブな試みと言えるだろう。
またBeckは、10月に発売予定の新譜「The Information」を、無地に近い方眼紙のようなジャケットに複数のステッカーをつけて販売する。ステッカーは多様な組み合わせで同梱され、それらを使って購入者は自分だけのジャケットを作成できる。こだわりのあるファンは、ダウンロード配信を利用するのではなく、CDを買いたくなる。ちなみに発売後には、Beck自ら審査員を務めるジャケット・コンテストが開催されるそうだ。
Beckは本来、インタラクティブな感覚が備わっているミュージシャンだ。前作「Guero」がミックス中にオンラインに流出した時も、それを飄々と受けとめて作品を仕上げ、CD/DVDのデラックス版を用意したり、ファンのマッシュアップに対抗するようにリミックス版「Guerolito」をリリースしたりした。思い返してみると、前作のCDリリースですらオリジナルの13曲で完結せず、ファンと対話しているような感じで変化させ続けた。
最後にもう1つ。OK Goが8月31日(米国時間)に開催されるMTVミュージックアワードでトレッドミル・ダンスをライブで披露するそうだ。「誰それ」という人はここをチェックしてほしい。OK Goは2005年8月にアルバム「Oh No」からファーストシングル「A Million Ways」をリリース。自分たちで振り付けしたパロディダンスを、友達から借りたビデオカメラを使って裏庭で撮影するという、制作費10ドル以下の超低予算PVを作成した。が、Capitol Recordsは超低予算PVをジョークとは受け取らずに、リリースを拒否。ムッとしたバンドがYouTubeで公開したところ、爆発的な人気を集めた。その後、OK GoはYouTubeのチャンネルを通じてダンスビデオ・コンテスト開催するなど、ファンとの密接な関係を築いて、ついにMTVミュージックアワード出演まで登りつめた。
BeckやOK GoはCDで勝負していない……と思う人がいるかもしれない(特にOK Go)。だが、楽曲を通じてリスナーと結びついているという点では、やはりミュージシャンである。今やプロでなくても、楽曲を簡単にリミックスできるし、ビデオを製作してオンラインサービスを通じて公開できる。リスナーに口出しをせずに、おとなしく聞いていろという方が無理がある。むしろ、そのようなテクノロジをツールとして、鑑賞者とインタラクトするという活動の方が自然になるのではないか……というのが第1回目のZeroOneの印象だ。
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