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【レポート】組み込みソリューションMST2001で見えたT-Engine

2001/11/28

組み込み技術の祭典「MST2001」

○組み込み技術が一堂に会した

組み込み技術の祭典第15回MST2001(Embedded Technology Conference and Exhibition)が、11月20日から11月22日にかけて、東京ビッグサイトで開催された。最終日には、「スーパーリアルタイムプログラマー」と題されたパネルディスカッションが行われるなど、次世代の組み込み環境をどうやって支えていくのかについての活発な討論も行われた。

組み込み技術といえば、スタンダードとなっているのは、ITRON。そのITRON関連の参加者が多数出てきたパネルディスカッションとそれに先立つ特別講演で、ついにT-Engineの全貌が見えてきた。

○T-Engineとプログラマーの育成

まずは特別講演である。

特別講演では、最近おなじみのTRONプロジェクトの坂村健東大教授が、まもなく発表されるT-EngineというTRONをベースにした組み込みボードについて、かなり詳細な話をしていた。このT-Engineは、正式発表は12月14日(12日という情報もある)になる、組み込み用のスタンダードボードコンピュータである。

従来、組み込み用機器というのは、その完成製品の規模や価格帯によって、千差万別なマイクロプロセッサ、機器などが組み合わされて作られてきた。小さいものでは4〜8ビットのマイクロプロセッサで動作しているし、大きなものでは32〜64ビットのマイクロプロセッサで動作する、というような具合である。

このように、組み込み用途では、最終的な製品の幅がかなり広いので、それらの応用に柔軟に対応できる「移植性(ポータビリティ)」が、たいへん重要なテーマとなっている。ひとつのプログラムをつくったら、そのノウハウを別の製品に応用して使えることがたいへん重要なのである。

組み込み用途でTRONが高いシェアをもつ理由は、このポータビリティと無償であることにあるとされている。組み込み用のTRONであるITRONは、下は8ビットから上は32ビットまで、メモリ容量も最低で4KB程度から、少し大規模になっても128KB程度というような小さな環境で動作するのだ。

プレゼンテーションで公開されたT-Engineのボード写真。さまざまなニーズに対応するために作られたボードで、PDAとしても利用できるという
T-Engineの構成
T-Engineには、より小さな組み込みに適したμT-Engineがシリーズ化されるという。現在T-Engineは日立が、μT-Engineは三菱が開発中
T-Engineには、BTRON(「超漢字」)をミドルウェアとして搭載するという。そのままでPDAにもなるし、多漢字機能を使えば読書端末にもなる

○ITRONの方向転換

ところでこのITRONは、仕様は公開されているし、オープンソースのプログラムも公開されているのだが、実際には各社がそれぞれの形で実装したITRON仕様準拠OSが多数あるという状態となっている。つまり、それぞれのITRONは、仕様は同一でも、製品としてはまったく別のものなのだ。製品が異なれば、当然開発環境などは違った環境になってくる。これをITRONでは、「弱い標準化」と呼んでいる。

「弱い標準化」というのは、チップも開発環境もたったひとつに規定してしまうような「強い標準」(デファクト・スタンダード)ではないという意味だ。自由な部分を残しておくことで、競争する余地や改良を促そうという意図が「弱い標準」にはあるのである。実際、ITRONが動作しているマイクロプロセッサは、8086系、68000系、SH系、M16/32系、VR4100系、H8系、ARM8TDMI系など多種多様であり、使う側はその時々のニーズに応じて、自由に選択をすることができる。

しかし、「弱い標準」を続けてきたITRONに対する批判の声として、しばしば耳にするのが、ソフトウェアの互換性や移植性を保つために、標準をもうけてほしい、という声だったのである。標準的な環境が決まることで、移植性が高まり、開発環境もスタンダードになる。そこでITRONはμITRON4.0のときから、応用ごとにプロファイルを用意して互換性を高める方向に進化してきた。

ソフトウェアの移植性を向上したμITRON4.0。従来の「弱い標準」とは異なるアプローチを実現した
ITRONに対する批判も少なくない

○ボード単位での互換性を高めたT-Engine

互換性をさらに向上させるためには、マザーボード単位での互換性をとることがベストだ。そこでμITRON4.0に続いてTRONプロジェクトが打ち出したのが、次世代リアルタイム環境であるT-Engineなのだ。

T-Engineは、現在日立製作所と三菱電機が開発を進めている。ITRONを搭載したスタンダードボードにするほか、BTRON(「超漢字」)を搭載したPDAなども視野に入れているのだという。スタンダードボードにすることで、コストの削減が可能になり、開発効率が向上する。開発の機関も短縮できる。よいことづくめなのである。

○次世代BTRONとしての高まる期待感

T-Engineは、次世代BTRONのターゲットマシンとしても期待される。

BTRONの超漢字は、中心部分にμITRON3.0のリアルタイムOSをもつOADG互換機用のオペレーティングシステムである。「超漢字」が発売されてわかったことは、OADG互換機というのが、実際にはかなり怪しい存在であり、機種ごとのばらつきがたいへん多い、ということだ。最近ではWindows専用のハード化が進んでいて、仕様の公開されないハードがたいへん増えている。

「超漢字」をお使いになった方ならすぐにわかるのだが、「超漢字」では、対応している周辺機器の種類がきわめて少ない。そこで、いっそOADGではなく、すべての仕様が公開された独自プラットフォーム上にBTRONをもっていったほうが、自由度が高くなるのではないか。

T-Engineに力を入れる理由のひとつに、BTRONのプラットフォームとする、という目的もあるのだそうだ。

いつまでもPCアーキテクチャーではない、というのがBTRONの主張であり、T-Engineのボードが安価に供給され、オープンアーキテクチャーで高機能になるのであれば、いつまでもOADG互換機にしがみついている必要はない。

発表では、T-Engineの応用プログラムとして、既存のBTRONを解体し、ファイルシステムやGUI、多漢字機能などに分割して搭載することも考えていると、野心的な発案も出てきた。

自由の国のTRONはチップや規模などでさまざまな競争の余地を残している
明らかにされたT-Engineのねらい

○読書端末、PDA、さまざまにひろがるBTRONの未来

実際に「超漢字」on T-EngineのPDAが発売になるとすれば、PDAではWindowsCE系、Palm系、Zaurus系と、最近増えてきた組み込みLinux系に続く第5番目のソリューションになるのかもしれない。T-Engineが安価に組み込み用として供給されるようになっていけば、電子レンジで動くBTRONインタフェースとか、辞書機能をもった多漢字BTRONのようなもの、多漢字でメールをやりとりできるBTRONメーラーのようなものが、次々と出てくる可能性は高い。もちろん、そのときに、それをわざわざBTRONとは呼ばないのかもしれない。

T-Engine上の当面のBTRON「超漢字」の実装目標としては読書端末が検討されているようだ。こちらにもライバルは少なくない。実際に登場することになれば、激しいバトルが繰り広げられるだろう。PDA型の「超漢字」on T-Engineは、登場するとしても、その後になると思われる。

なおT-Engineの正式な発表は、12月に入ってからとのこと。次世代TRONにどんなビジョンを描くのか、期待して待ちたい。

(美崎薫)

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