【Internet Week 2002レポート】オープンソースの法解釈と政府のオープンソース化
2002/12/24
Internet Week 2002最終日の20日は、そもそもInternet Weekの前身でもあったJEPG/IP主催の「IP Meeting」、Slashdot.jpなどでおなじみOSDN-Japanが主催する「オープンソースウェイ」などがメイン。「IP Meeting」では冒頭、プログラムでは講演予定のなかった村井純氏(慶応大学)が飛び入りで講演を行うといったハプニングも起こり、ややビジネス色が強かった前日とは一転、エンジニア色が前面に出た一日となった。
○Internetが社会インフラとして定着したことをDNS Attackで実感
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| 日本に設置されているDNSルートサーバ(m.root-servers.org)へ攻撃があったときのトラフィック |
というわけでまずはその村井氏の講演からご紹介する。講演は今年村井氏が関わってきた一連のプログラムを振り返る形で行われ、特に東南アジア向けに衛星を使ったInternetのインフラを整備する事業や、自動車向けのインターネットITSへの応用を狙った、高速道路のETCシステムなどに使われているDSRCプロトコルにIPデータを載せる実験などに多く時間を割いて紹介を行った。
ただ講演の最後に村井氏が「今年一番印象に残ったこと」として挙げたのは、10月13日に全世界規模で発生したルートDNSサーバへのDDoS攻撃だという。といっても攻撃そのものは実は結構頻繁に起きており、この攻撃もそのひとつに過ぎないということでさほど気にも留めていないそうだが、では何が印象的だったかといえば「事件後にマスコミが一斉に社会問題としてこの事件を報道したこと」だという。村井氏はこの報道を見て「こういった攻撃が社会問題となるぐらいにInternetが生活基盤として定着したことを改めて実感した」と述べ、今後Internetがますます生活に欠かせないインフラになっていくと訴えていた。
○日本の法律とGPLとの微妙な関係
続いては「オープンソースウェイ」から、弁護士の小松弘氏による「オープンソース・ライセンスの実務」のセッションをご紹介しよう。一口にオープンソースといっても適用されるライセンスには様々なものがあるが、今回はその中でも代表的なGNU Public License(GPL)を中心に他のライセンスとの関係、複数のライセンス条件が混在した場合の扱いなどに関して解説が行われた。
その中でも興味深かったのが、日本の法律とGPLとの関係に関する解説。代表的なところではまず消費者契約法とGPLとの関係で、GPLは同ライセンスが適用されるプログラムについて「NO WARRANTY」をうたっているが、消費者契約法では有償契約の場合に第8条5項で「目的物に隠れた瑕疵(=バグ)がある場合に事業者の責任を免除する」ことを禁じているほか、無償契約でも既知のバグを周知していない場合には同じく第8条1〜4項により責任の免除が認められない。
消費者契約法は当然のごとくGPLよりも効力が優先する上、同法の適用対象となる「事業」は営利・非営利を問わず反復して行われる行為を指すと解釈されていることから、趣味でGPLソフトを開発・公開している場合でも消費者契約法の対象となってしまう場合があるというのだ。
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またGPLでは成果物の配布について「Distribution Free」をうたっているのに対し、日本の著作権法が平成11年の改正で「譲渡権(第26条の2)」を認めるようになったことから、同氏は「いわゆるGPLにおけるProprietary概念そのものが破綻をきたしてきているのではないか」と述べた。それ以外にも同氏はGPLソフトを組み込んだハードと製造物責任法(PL法)との関係(ソフトそのものは直接的にはPL法の対象ではないが、ソフトを組み込んだハードはPL法の対象となる)、GPLと裁判所法の関係(日本の裁判では日本語を使わねばならないが、GPLには公式な日本語訳が存在しない)などにも触れ、GPLがあるからといって必ずしも裁判では安心できない可能性があることを示した。
少なくとも同氏によれば「日本においては、オープンソースのライセンス内容が争点となった判例は下級審まで含めてもおそらく存在しない」ということであり、実際に裁判になった場合どのような判断が下るかは未知数であることを考えると、今後GPLを使うことに対する法的リスク、といったことがもっと議論される必要があると感じた。
○政府はどこまでオープンソース化できる?
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| 経済産業省の福田秀敬氏 |
「オープンソースウェイ」からもうひとつご紹介するのは、経済産業省・大臣官房参事官の福田秀敬氏のセッション。同氏は昨年7月まで約3年間シリコンバレーにいたということもあってか、「ソフトウェアで最近これだけ欧米にこてんぱんにやられてるのを見ると何とかしたい」「日本と中国ではSEの給料は一桁違うが実際の能力にはさほど差はなく、今後3年以内にコーディング部分の仕事はかなりの部分が中国に出て行くと思う」などと日本がこの分野で劣勢に立たされている事を認識した上で、「ゲームのルールを変えるため」にLinuxなどのオープンソース技術を使いたい、と述べた。
とはいえ、いきなり「政府調達を全部Linuxにしろ」となると、対応できる技術者不足を始めいろいろな問題があることも事実。そこで現在は、まず同省傘下にある産業技術総合研究所で「産総研モルモットプロジェクト」を展開し、実際に産総研内部で100%オープンソースによるシステムを構築・運用し問題点を洗い出す作業を行っているという。福田氏は「産総研には、2年後までに内部システムを全てオープンソース化するように言ってある」と述べ、まずは自分達で作ってみて「小さく生んで大きく育てる」方針でオープンソース化を進めたい意向を示した。
ただ福田氏は、講演の本編で「そもそもシステム投資にはデフレ効果が伴うもの」「e-Japan計画に政府は毎年2兆円も出しているのだから、もう少しROI(投下資本利益率)を意識したい」と述べる一方で、会場との質疑応答の中で「役人のステータスは未だに『予算をどれだけ取ったか』『どれだけ自分の部署に人を増やしたか』で決まるため、システムに投資してダウンサイジングしようという発想が全く出ない」と述べるなど、オープンソース化による効率アップに抵抗する声も依然根強いことを示唆した。
オープンソースコミュニティへの支援については「支援したい気持ちはあるが、どうも政府はNPOなどの人間には嫌われている傾向があるので…」と述べた上で、「今までもソフト開発には2,000億円つぎ込んだが、実際何ができたのかよくわからない」「中小企業やベンチャーにシステムを発注したくても『誰に出せばいいのか』『途中で逃げないか』など不確定要素が多い」と述べており、コミュニティ支援に伴うリスク評価がまだ十分に進んでいないために支援が難しい現状も浮き彫りになった。
いずれにせよ福田氏は最後に「私の本音は『とにかくWindowsを使うな』ということだ」と述べるなど、歯に衣を着せぬ言動でオープンソース化を推進する姿勢を明らかにしたが、実際の計画遂行に当たっては前記の通り政府の内外からの抵抗も予想されるだけに、どう関係者がこの難問を処理していくかを今後見守る必要があるだろう。
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(佐藤晃洋)
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