【Internet Week 2003レポート】OpenSource Way 2003(2) - 小倉氏講演 GPLと日本法の整合性
2003/12/08
○GPLは契約か、権利の不行使宣言か
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| 弁護士で中央大学法学部兼任講師でもある小倉秀夫氏 |
同氏に続くセッションでは、弁護士で中央大学法学部兼任講師でもある小倉秀夫氏によってGPLと日本法の間のいくつかの問題点について指摘がなされた。まず、GPLがいわゆる「契約」なのか、それとも単なる著作者の「権利を行使しません」という宣言にすぎないのか、という問題が提示された。一般に、契約の成立には承諾の意思表示が必要であるが、GPLに則って配布されるソフトウェアを利用、改変、再頒布する際に、その主体が明確な承諾の通知を返すことはない。つまり、GPL 5条によって「改変、再頒布した場合は承諾したものとする」ことが明言されていても、果たしてそれが有効なのかどうか、ということである。この問題に対しては、民法第526条の「承諾ノ意志表示ト認ムヘキ事実アリタル時ニ成立ス」を引き、改変や再頒布という行為が意思表示と認められるかどうかが争点になると述べられた。なお、ソフトウェアパッケージの開封をライセンスへの承諾と見なす、いわゆる「シュリンクラップ契約」を法律家の多くが有効な契約と考えていないという例が挙げられたが、これは会場内の参加者の多くが意外に感じたようだ。
○"derivative work"(派生作品)
続けて指摘されたのは、GPL 0条にいう「derivative work (派生作品)」の問題である。GPLの表現自体の曖昧さの問題から、"copyright law"(著作権法)がどの国の著作権法を指すのかという問題、「派生作品」がどこまでの範囲を指すのかという問題などが指摘されたが、特に「パッチファイルは派生作品にあたるか」については、それが実際の現場に直結するからか、参加者の興味を強く引いたようだ。同氏の立場では、パッチファイルが元のソースコードを含むものであっても、それは元プログラムの位置関係を示すものであって創作性を利用するものとは言えず、日本法のもとで二次的著作物と言えるかどうかについては多分に疑問が残るという説明がなされた。
また、プログラムと静的・動的にリンクするプログラムは「派生作品」にあたるか、という問題も考察されたが、これはプログラムの何をもって「著作物」と捉えるかによるようだ。判断はプログラムのソースコードごとなのか、オブジェクトコードごとなのかによって異なるが、これについてはまだあまり議論が進んでいないことが説明された。
○著作者人格権の処理
さらに、GPLの生まれたアメリカの著作権法にはなく、日本の著作権法では特徴的に強い概念「著作者人格権」の処理の問題についても言及された。日本の著作権法第20条には「同一性保持権」として、著作者の同意なく著作物が改変されることを制限する規定がある。例えば、著作者Aがあるプログラムの著作権をBに譲渡し、BがGPLのもとでこのプログラムを公開した場合に、このプログラムを改変することがAの同一性保持権を侵害しないか、という問題があるということだ。これは同法同条に「プログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変」については適用しないとの規定があることから、その改変が「効果的」か否かによって判断される。ただ、「効果的」と判断する主体が改変する本人で良いのか、それとも客観的に判断されるのかについては今のところグレーゾーンである。
○無保証条項
最後に、ソフトウェアライセンスに必ずといっていいほど記述されている「このソフトウェアは無保証であり云々」といった、いわゆる無保証条項に関する問題が述べられた。GPLにも11条に「there is no warranty for the program」という記述がある。ソフトウェア開発者の多くは、「免責合意」、つまりバグによって起きた損害から莫大な損害賠償を請求されたりしないという安心をこの記述に依っているわけだが、事はそう単純でもないようだ。この条文が法的に効力を持つかどうかも、最初に説明されたGPLが「契約」なのか「不行使宣言」なのかによって異なるのである。GPLを「契約として成立しない」とする立場では、この条項も免責合意不成立となる。「契約成立」とする立場でも、プログラムを改変、配布する者との間では免責合意が成立するが、単なる利用者との間では不成立であると考える説が有力だ。結局、法実務上この無保証条項はたいした効力を持たないのである。
では、免責条項が不成立の場合、プログラム開発者にはどのような責任が課せられるのかという問題だが、考えられるのは製造物責任法か一般不法行為責任の適用である。ただし、ソフトウェアはハードウェアに組み込まない限り製造物責任法の対象とならないので、残る一般不法行為責任についてが主な争点となる。要は、バグの存在とそれが他人に損害を与えることがわかっていながら修正措置を講じなかった場合には、開発者は不法行為責任を問われる可能性がある、ということだ。
○オープンソースと法律
ソフトウェア開発者にとってショッキングな指摘が続いたためか、講演後の質疑応答でも活発に疑問が寄せられた。同氏は、「これまでフリーソフトウェアを使うのはいい子だけだったけれど、これからもそうとは限らない」と、問題点を考えることの重要性を強調した。現状のGPLと日本法に関するこれらの問題が今すぐに表面化し、開発者が実際に裁判に巻き込まれるような可能性はさほど大きくないかもしれない。また、講演で指摘された問題にはソフトウェア・ライセンス全般に関わるものも含まれており、GPLに限った話ではないことも多々あるだろう。しかし、SCOや東風フォントの例を見てもわかるように、オープンソース関連市場は既に法律上のリスクを軽視できないところまで巨大になっている。同氏のいう「学際的研究」という意味でも、オープンソースに関わる各々が、法律について真剣に考えるべき時がきているのは確かだろう。
(鶴田展之)
【Internet Week 2003レポート】OpenSource Way 2003(1) - 八田氏講演 オープンソースという考え方
【Internet Week 2003レポート】IPv6 Technical Summit(1) - 日本のIPv6技術が中東で花開く?
Internet Week 2003
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