ユビキタスIDを利用した歩行支援システムがデモ公開される
2004/03/24
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所は24日、同所長の坂村健氏が国土交通省「自律的移動支援プロジェクト推進委員会」の委員長に就任したことにあわせ、プロジェクト内で同研究所が開発を進める「ユビキタス場所情報システム」の一例をデモンストレーションした。
国土交通省に設置された自律的移動支援プロジェクト推進委員会は、すべての人が持てる力を発揮できる「ユニバーサル社会」を実現するため、誰もが個人として自律的に移動できる環境づくりを目指している。坂村氏とYRPユビキタス・ネットワーキング研究所は、移動経路やユーザーの場所に関する情報などに誰もがアクセスできる環境を、ユビキタスコンピューティング技術を応用して構築し、障害者や高齢者、外国人といった人々の自律的移動をITによって支援する。
デモンストレーションでは、ICタグ読み取り用のアンテナを内蔵した白杖と、小型情報端末のユビキタス・コミュニケータ(UC)を接続し、視覚に障害を持つ人が市街地を歩行する場面のイメージが実演された。地面に敷かれた誘導ブロックの中に、ユビキタスIDを記録したICタグが組み込まれており、白杖の先端がタグを読み取るとその場所に応じた音声ガイドが行われる。例えば、分かれ道に達すると「T字路です。右方向へ進むと商店街、左方向へ進むと……」といった情報がUCから聞こえてくる。ICタグにはユビキタスIDだけが記録されており、実際のガイド情報はUCがネットワーク経由で取得している。大容量のICタグの場合は情報をタグ自体に記録することも可能。
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UCに接続された白杖の先端にICタグ読み取り用のアンテナが組み込まれている |
誘導ブロックの裏側。中心にICタグが埋め込まれている。ブロックのどの部分に白杖がかざされても反応するよう、タグの周辺は大きな四角いアンテナとなっている |
UCはICタグだけでなくさまざまな通信機能に対応しているので、歩行が誘導ブロックを外れてしまった場合も、例えばガードレールや街灯などに赤外線発信器を設置しておけば「歩道は2m左側です」などと注意・警告することができる。また、位置認識技術を組み合わせることにより、同じ場所でも向かってきた方角に応じて「右側に脇道があります」「左側に脇道があります」と表現を変えてガイドすることが可能。坂村氏は「従来も誘導ブロックを使った同様の研究はあったが、今回のシステムはユビキタス技術がなければ実現できないもの」と説明し、コンピューターが場所を認識するというユビキタス技術の本質が活きる用途であることを強調した。
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ダイコンのトレーサビリティシステム実験などで利用された仕組みを応用 |
ICタグ以外にもさまざまな通信路が利用可能。これは赤外線発信器と人感センサーを組み合わせたもの。街灯などに設置することを想定 |
また、システムはあくまでユニバーサルデザインの考え方に立って設計されており、障害を持つ人々の支援と、一般の情報サービスをシームレスに提供できる基盤となることを目指している。街区表示板(交差点などにある「○○町一丁目」といった看板)にUCをかざすと地図が表示されたり、道路工事現場に近付くと迂回路を案内したりといったサービスは、先の誘導ブロックによるナビゲーションと同じシステムで実現できる。坂村氏は「特定の障害を持つ方だけを助けるシステムを作ろうとすると、費用が高くなってしまう。誰もが役立つシステムにすることが重要。障害を持つ方だけを対象にしたものではない」と述べ、ユニバーサルデザインの考え方に基づいたほうが、自律的移動支援環境を確立するためには現実的であるとしている。
UCに提供される情報の記述方法については、現在のところT-Engineフォーラム会員以外には公開されていないが「ホームページを作るのと同じ程度」(坂村氏)の技術でコンテンツを制作可能で、個人でも簡単に情報提供が行えるという。行政だけでなくボランティアなどによってもコンテンツが整備されていくことを期待している。情報記述の仕様は、T-Engineフォーラム内で十分に検討された後に一般公開される予定。
ナビゲーションのために道路や建物でICタグが設置されることに対して抵抗感を示す意見もあるが、坂村氏は「100%安全という技術はない。包丁だって自動車だってとても危険なものだが、できる限りうまく利用してきたことで、技術というものは発展してきた」と話し、最初から技術自体を否定するのではなく、安全基準や運用ルールを併せて検討していくことで、技術の良い面を活かしていこうとすることが重要だと主張する。
自律的移動支援プロジェクトは2004・2005年度の2カ年計画で、屋外環境を含めた実証実験が神戸市で行われる予定。
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