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住基ネット侵入実験のセミナー報告中止で、米国技術者が総務省を提訴

2004/11/23

大川淳

米セキュリティーラボ・テクノロジーズのイジョヴィ・ヌーワー(Ejovi Nuwere)CTO(最高技術責任者)が、総務省を相手取り、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した。同CTOは、2003年秋に携わった、長野県内自治体での住基ネット侵入実験で発見した事項と改善についての見解を、都内で開催されたセキュリティ専門家の国際セミナーで発表することになっていたが、発表直前に総務省が主催者を通じて発表内容の大幅な変更を要求、発表ができなくなり、表現の自由を否定されるとともに、セキュリティ専門家としての誇りを傷つけられたとして、3,000万円の損害賠償を求めている。

イジョヴィ・ヌーワー氏

清水勉弁護士

訴状と関係者の話によると、事実経過は以下の通りという。ヌーワーCTOは、11月12日都内で開催されたコンピュータネットワークセキュリティに関する国際セミナー「PacSec.JP/core04」の報告者の一人として、「Inside Jyukinet:The Audit(住基ネットに関する考察)」との表題で、長野県内の自治体で実行した、住基ネット侵入実験によりわかったことに基づき、問題提起する意向だった。米セキュリティーラボ・テクノロジーズは、米政府機関、企業などに向け、技術的脅威に対処するさまざまなサービスを提供している。

このセミナーは「PacSec実行委員会」が主催、日本側のエス・アイ・ディ・シーとカナダのドラゴス・ルジュ氏が同委員会の運営にあたっていた。約40人の技術者が、カナダ、フランス、米国、アルゼンチン、日本などから参加しており、エス・アイ・ディ・シー、丸紅ソリューションなどの企業が協賛、総務省、日本ネットワークセキュリティ協会、YRP研究開発推進協会などが後援していた。

このセミナー開催の約1ヶ月前、2004年10月上旬、ヌーワー氏は、セミナーで使用するスライドの英語版を、主催者を介して電子メールで総務省に送付したが、そのとき、同省は何も反応を示さなかった。11月9日になって、同省は、日本側主催者であるエス・アイ・ディ・シーに対し、ヌーワー氏の発表内容について話し合いを申し込み、同社はこれに応じたが、同氏はこの時点で来日しており、この話し合いに同席することができたにもかかわらず、事前に両者からは連絡がなく、同氏は、自分の発表内容が論議されたことを知らなかった。

11月10日、同社は、総務省がスライドの内容を修正するよう要求していることをヌーワー氏に伝えた。同省は、1.スライドのネットワーク図は、住基ネットではない。2.スライド中の写真に、無線アンテナが写っているが、住基ネットでは無線LANを使用していない。3.住基カード発行用コンピュータの操作画面が写っている写真があるが、公表していないので、出さないように--といった点に言及した。

ヌーワー氏は「1の図は、自分が作業をした範囲を示すもので、住基ネットを説明するものではない。2は、侵入実験の環境がいかに作業に対して困難であったか説明しようとしたもので、住基ネットが無線LANになっていると表現したものではない。3は、公表されているかどうかわからないので公表しない」などと説明、要求に配慮し、この日、修正したスライドを電子メールで主催者側に送信した。しかし、翌11日、同省、日本側主催者からは何も連絡がなかった。

11月12日、ヌーワー氏は、エス・アイ・ディ・シーから、総務省へのメール送信を促され、同省に修正版のスライドを送り、直接の話し合いを申し入れ、同省はこれを受け入れたが、話し合いの場には同省担当者は姿をみせず、財団法人地方自治情報センターのA氏が訪れ、約1時間半、携帯電話をかけたままで、同省の指示通りの発言に終始した。

A氏は、修正版スライドの存在を知っていたのに、最初に提出したスライドを基に話し合うよう指定、理由を示さず、スライドの一部を公表しないよう要求、こうした同省の指示に全面的に従うか、そうでなければ、発表をしてはいけない、とヌーワー氏に話した。そこで同氏は、発表を強行すれば、セミナーの運営を混乱させ、主催者、参加者に迷惑をかけると判断、発表を断念した。11月19日、ヌーワー氏側は総務省に対し、謝罪と、同氏に再度、発表の機会を与えるよう要求したが、一切応じられないとの回答であったという。

以上のことから、ヌーワー氏側は「公権力の行使による原告(同氏)の表現の自由(日本国憲法21条)に対する侵害だ。同省の違法行為は、故意によるもので、被告(総務省)は、国家賠償法に定められた責任(国または公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行ううえで、故意または過失により違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する)を負うべきだ。今回の講演断念により、米国政府関係にも、セキュリティ能力を高く評価されている原告は専門家としての誇りを蔑ろにされ、精神的苦痛は甚大」として、3,000万円の損害賠償額を算定した。

ヌーワー氏は「この訴訟はコンピュータ技術やハッキングに関するものではなく、言論の自由に関するものだ。総務省には、いかなる人々に対しても、『話してはならない』という権利はない。私は、総務省の妨害行為を見過ごすことができない。この訴訟は政治活動のためのものではない。民主主義とオープンな対話を促進するためのものだ」と語った。

ヌーワー氏の代理人、清水勉弁護士は「裁判所が、この問題をどれほど真摯に考えてくれるか。日本の社会にとって、ITがいかに重要であるか日本政府は理解していない。(住基ネットのようなことについて)技術的問題提起をさせないような国であっていいのか」と述べた。

一方、総務省では「訴状を読んでいないので、いまのところ(11月22日15時)、何ともいえない」としている。

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