量子暗号システムの相互接続実験に成功 - 5年後の実用化へ
2006/05/15
三菱電機、NEC、東京大学生産技術研究所(東大生研)は12日、高い安全性が保証される「量子暗号システム」の相互接続実験に、国内で初めて成功したと発表した。三菱電機とNECがそれぞれ独自に開発したシステムを接続し、東大生研が安全性を評価した。量子暗号を使った通信ネットワークは、盗聴・解読が不可能な通信インフラとして期待されるもので、5年後の実用化を目指すという。
現在、一般に用いられる暗号技術は、解読するために膨大な計算時間が必要になるという前提で「安全」とされている。将来、量子コンピュータのように超高速な計算機が実現したり、あるいは解読アルゴリズムが発見されたりした場合には、その安全性は脅かされてしまう。しかし、量子暗号システムは安全性が物理法則で保証されているので、そういった問題とは本質的に無関係だ。
量子暗号システムは、光子の量子状態を利用してデータを運ぶもので、盗聴された場合にはそれを検出できるという特性を持つ。そのため、盗聴そのものは理論的に不可能ではないが、盗聴されたことは必ず分かるので、通信を止めたり経路を変更するなどの対応が可能。結果として秘匿性の高い通信が実現されるものの、まだ通信速度が遅いこともあって、現在は一般的に暗号鍵の送付のみに用いられる。
絶対的な安全性を誇る量子暗号だが、今まで課題としてあげられていたのは、「糸電話」(今井秀樹・東大生研前教授)とも評されていた、「1対1の通信しかできない」「長距離通信ができない」ことだ。今回、実証実験を行った相互接続はそれを解決する方法の1つであり、安全な中継点を設置していくことで、インターネットのような「量子暗号ネットワーク」が構成可能になるという。
三菱とNECのシステムは、光子伝送系や誤り訂正方式などが異なっており、そのまま接続することはできないため、今回、相互接続のためのインタフェース機能と暗号鍵を共有する機能を開発した。下図を見てもらうと分かりやすいが、三菱側は装置A-B間、NEC側は装置C-D間で、量子暗号による通信が行われる。三菱側の装置B、NEC側の装置Cを中継のためのセンター局に置き、PC2を介して接続される。
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今回開発した量子暗号ネットワーク。暗号鍵の配布を量子暗号システムで行い、データ通信はインターネットを利用する |
実際の機器。隣のラックに置かれているが、リモート局とセンター局の間には20km分の光ファイバーが置かれている |
それぞれの量子暗号システムには独自に暗号鍵(K1/K2)が設定され、その上で、センターで生成した暗号鍵(K3)を双方の端末(PC1/PC3)に送付。この両端末間で安全に暗号鍵(K3)が共有できたので、データを暗号化し、通常のイーサネットで送信する。ここではもちろん盗聴も考えられるが、平文と暗号鍵が同じ長さの"完全暗号"で通信を行っているため、例え盗聴されても解読は不可能だ。
ただし、この方式では送付するデータと同じ量の暗号鍵が必要となることから、通信速度は量子暗号システムのスループットに結局依存してしまう。今回のシステムでは、三菱電機側が20bps、NEC側が20kbps程度と差があり、しかもインターネットに比べればどちらもかなり遅いが、通信を行っていないときにも暗号鍵をどんどん端末側にストックしておくことで、通信速度の問題はある程度解決できる。
この方式の安全性は、センター局が安全であることを前提としており、運用次第では安全でなくなってしまう危険性もある。そういった"仮定"を含むものの、今井秀樹・東大生研前教授(現 中央大学教授 兼 産業技術総合研究所 研究センター長)のグループは今回、最新の量子暗号理論とセキュリティ技術の視点から、実装により発生する脆弱性や盗聴により漏洩する情報を解析、開発した方式が安全であることを検証・確認した。
今回は2点間の中継だけだったが、技術的には、3点間や4点間などの多点間、そして中継局を複数経由する長距離通信も可能だという。接続実験の成功について、「量子暗号が単なる糸電話ではなくて、本当にネットワークとして使えるものであることを意味している」とは今井教授。両社は、「5年後を目標に量子暗号ネットワークの実用化を目指す」としている。
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